相続放棄と限定承認は何が違うか。3か月の熟慮期間と、間に合わないときの伸長
基準日 2026年9月23日 ・ 確認 安井義幸
結論(要約回答)
相続が開始した場合、相続人は単純承認・相続放棄・限定承認の三つのうちいずれかを選べます[1]。期限はいずれも、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です[1][2]。相続放棄は、その相続について初めから相続人でなかったことになる手続きで、申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、費用は申述人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です[1]。限定承認は、被相続人の債務がどの程度あるか不明で、財産が残る可能性もある場合等に、相続によって得た財産の限度で債務の負担を受け継ぐ手続きです[2]。こちらは相続人全員が共同して行う必要があります[2]。財産の調査をしても3か月以内に判断できない場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てられます[3]。申立てもまた、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります[3]。動けなくなるのは、この3か月を何もせずに過ぎたときです。
結論の一覧表
| 項目 | 相続放棄 | 限定承認 | 出典 |
|---|---|---|---|
| どういう手続きか | 相続を放棄する | 相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ | [1][2] |
| 使う場面 | 債務が財産を上回ることが分かっている場合など | 債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等 | [2] |
| 誰が行うか | 相続人が単独でできる | 相続人全員が共同して行う必要がある | [1][2] |
| 期限 | 自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内 | 同左 | [1][2] |
| 申述先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 | 同左 | [1][2] |
| 費用 | 申述人1人につき収入印紙800円分、連絡用の郵便切手 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手 | [1][2] |
| 期間の伸長 | 家庭裁判所は申立てにより3か月の熟慮期間を伸長することができる | 同左 | [3] |
| 伸長の申立期限 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 | 同左 | [3] |
三つの選択肢がある
答え: 単純承認、相続放棄、限定承認です。何もしなければ単純承認になります。
根拠:裁判所は、相続が開始した場合、相続人は単純承認・相続放棄・限定承認の三つのうちいずれかを選択できるとしています[1][3]。そして、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に決定する必要があるとしています[3]。
期限を過ぎると選択肢がなくなる、という構造です。財産も債務もまとめて引き継ぐことになります。だからこそ、最初の3か月で何を調べるかが決まってきます。
手続きの全体の流れは親が亡くなったあと、何をいつまでにで扱っています。
相続放棄は一人でできる。限定承認は全員でないとできない
答え: ここがいちばん実務的な違いです。限定承認は相続人全員が共同して行う必要があります。
根拠:裁判所は、限定承認について「相続人全員が共同して行う必要があります」としています[2]。相続放棄については、申述に必要な費用が「申述人1人につき収入印紙800円分」とされており[1]、相続人それぞれが判断できる建て付けです。
きょうだいが3人いて、1人だけが限定承認をしたい、ということはできません。全員の足並みが揃わなければ選べない選択肢です。連絡が取れない相続人がいる場合や、意見が割れている場合、限定承認は事実上難しくなります。
一方、相続放棄は自分の判断でできます。ただし、先順位の相続人が全員放棄すると、次の順位の人が相続人になります。自分が放棄したことで、疎遠な親族に債務が回ることがあります。放棄する場合は、次に誰が相続人になるのかを確認しておいてください。
限定承認は「分からないとき」の選択肢
答え: 債務がどの程度あるか不明で、財産が残る可能性もある場合に使う制度です。
根拠:裁判所は、限定承認を「被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ」手続きとしています[2]。
つまり、財産のほうが多ければ残りを受け取れるし、債務のほうが多くても相続財産を超えて負担することはない、という仕組みです。一見すると常にこれを選べばよさそうですが、相続人全員の共同が必要で[2]、手続きも放棄より複雑になります。実際に使われる件数が放棄より少ないのはそのためです。
自分の事案でどれを選ぶべきかという判断は、弁護士または司法書士にご相談ください。当サイトは法律の個別判断を行いません。
3か月で決められないときは、伸長を申し立てる
答え: 家庭裁判所に申し立てれば、熟慮期間を伸ばせる場合があります。ただし申立て自体も3か月以内です。
根拠:裁判所は、相続財産の調査をしても3か月以内に単純承認・相続放棄・限定承認のいずれをするかを決定できない場合、家庭裁判所は申立てによりこの3か月の熟慮期間を伸長することができるとしています[3]。申立てができるのは利害関係人(相続人を含む)または検察官で、申立ては自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります[3]。申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、費用は相続人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です[3]。
ここが見落とされがちです。「3か月では判断できない」と気づいた時点で動かなければ、伸長の申立てもできません。財産の調査が終わらなくても、3か月の期限そのものは待ってくれません。遠方の実家で、通帳や郵便物の確認に何度も足を運ぶ必要がある場合、早い段階で伸長を検討する価値があります。
よくある質問
Q. 財産に手をつけてしまったら、放棄できませんか? A. 相続財産の処分などがあった場合の扱いについては、本記事で参照した資料の範囲を超えるため扱いません。弁護士または司法書士にご確認ください。
Q. 3か月の起算点はいつですか? A. 裁判所は「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」からとしています[1]。死亡日そのものではありません。
Q. 放棄しても、生命保険金は受け取れますか? A. 受取人が指定された死亡保険金の扱いは、相続財産とは別の論点になります。ご契約の内容によるため、保険の相談についてからご相談ください。
Q. 放棄すると、実家の管理義務もなくなりますか? A. 放棄後の管理に関する規定については、本記事で参照した資料の範囲を超えるため扱いません。なお空き家の管理をめぐる行政上の措置については誰も住まない実家を放っておくとどうなるかをご覧ください。
Q. 費用はどれくらいかかりますか? A. 収入印紙は800円分と連絡用の郵便切手です[1][2][3]。郵便切手の金額は裁判所ごとに異なります[1]。専門家に依頼する場合は、別途その費用がかかります。
出典
- 裁判所「相続の放棄の申述」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html、2026-09-23参照)
- 裁判所「相続の限定承認の申述」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_14/index.html、2026-09-23参照)
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_25/index.html、2026-09-23参照)