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親が認知症になると銀行口座はどうなるか。凍結の実際と、事前・事後にできること

基準日 2026年9月8日 ・ 確認 安井義幸

結論(要約回答)

親の判断能力が低下すると、本人名義の預金は、本人以外が自由に動かせなくなります。窓口で事情を伝えた時点で取引が止まることもあり、これがいわゆる「口座凍結」です。全国銀行協会は2021年2月18日に、成年後見制度を利用していない(できない)場合に、親族等からの払戻し依頼へ応じることがありうるとの考え方を示しました。ただしこれは会員銀行に示された業界団体の「考え方」であって法令ではなく、同資料自身が「極めて限定的な対応である」と位置づけています[1]。応じるかどうかは各銀行の判断です。

止まった後の正攻法は法定後見の申立てで、申立てから審判までは、おおむね1か月から2か月程度が目安とされています(鑑定を行う場合はさらに期間が必要)[3]。ただし後見は「今回だけ引き出す」ための手続ではなく、原則として本人が亡くなるまで続き、報酬も継続して発生します。だからこそ、親が元気なうちに任意後見や信託を検討しておく価値があります。

結論の一覧表

場面 使える手段 誰が決めるか 目安 出典
親が元気なうち 任意後見契約(公正証書で作成、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時に効力発生) 本人が後見人を選ぶ 令和7年の任意後見監督人選任の申立ては881件 [6][4]
親が元気なうち 信託制度の活用(民間では「家族信託」と呼ばれる) 本人(委託者) 法務省が信託制度一般として解説 [7]
判断能力が低下した後 法定後見(後見・保佐・補助の3類型) 家庭裁判所が選任 申立てから審判までおおむね1〜2か月 [2][3]
判断能力はあるが手続が難しい 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会) 本人と社協の契約 契約内容を判断し得る能力があることが要件 [8]
緊急に医療費等が必要 銀行への相談(応じるかは各行の判断) 各銀行 全銀協は「極めて限定的な対応」と位置づけ [1]

そもそも「凍結」とは何が起きているのか

答え: 口座が物理的に閉じられるわけではなく、本人の意思確認ができないために、本人以外からの払戻しや解約に銀行が応じられなくなる状態です。

根拠:全国銀行協会が2021年2月18日に公表した考え方は、成年後見制度の利用を求めることを基本としたうえで、親族等による代理取引について「親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である」と述べています[1]。裏を返せば、通常は本人の意思が確認できなければ動かせない、という前提に立っています。

大切なのは、この文書が法令でも行政の指針でもなく、業界団体が会員銀行に示した「考え方」だという点です。したがって「全銀協が認めたから銀行は応じてくれる」とは言えません。実際に応じるかどうかは各銀行の判断であり、支店・状況によって結論が変わりえます。

医療費など、本人のための支払いはどう扱われるか

答え: 本人の利益に適合することが明らかな支払いに限って、応じられる可能性がある、という整理です。

根拠:同じ考え方のなかで、「認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる」とされています[1]。あわせて、「真に本人の利益のために行われていることを確認することなどにより、当該リスクを低減させることができる」とも述べられています[1]。

実務としては、請求書や領収書など「誰にいくら払うのか」が分かる書類を持って、取引店に相談することになります。相続や生活費の立て替えのように使途が本人の利益から離れるほど、応じられる余地は小さくなると読むのが自然です。

法定後見はどれくらい時間と費用がかかるか

答え: 審判までおおむね1〜2か月。費用は本人の財産から継続的に支払われ、始めたら原則として途中でやめられません。

根拠:法定後見は本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3類型があり、家庭裁判所が事案に応じて成年後見人・保佐人・補助人を選任します[2]。申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などで、申立先は本人の住所地の家庭裁判所です[2][3]。裁判所は「申立てをされてから審判まではおおむね1か月から2か月程度かかります(鑑定を行う場合は、更に鑑定を実施する期間が必要になります。)」と説明しています[3]。

報酬は家庭裁判所が金額を決定し、本人の財産から支払われます[3]。全国一律の基準は示されていませんが、各家庭裁判所が「めやす」を公表しています。大阪家庭裁判所(令和4年2月)のめやすでは、成年後見人の基本報酬は月額2万円、管理財産額が1000万円超5000万円以下なら月額3万円〜4万円、5000万円超なら月額5万円〜6万円とされています[5]。金額は家庭裁判所によって異なるため、申立先の家庭裁判所の公表資料をご確認ください。

「親族が後見人になれる」と考えないほうがよい

答え: 実際に選ばれているのは、親族以外の専門職が大半です。

根拠:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月〜12月―」によれば、成年後見人等に親族が選任されたのは16.4%(7,014件)で、親族以外が83.6%(35,718件)です。親族以外の内訳は司法書士33.5%、弁護士24.9%、社会福祉士20.4%の順となっています[4]。

申立ての動機(複数回答)は、預貯金等の管理・解約が93.4%と最も多く、身上保護74.2%、介護保険契約45.7%、不動産の処分36.3%、相続手続25.6%と続きます[4]。動機の9割超が「預金を動かせない」ことである点は、凍結の話とそのまま重なります。

元気なうちにできること

答え: 任意後見契約と、信託制度の活用。どちらも本人の判断能力があるうちにしか使えません。

根拠:任意後見は、厚生労働省の説明によれば「ひとりで決められるうちに、認知症や障害の場合に備えて、あらかじめご本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度」で、契約は公証人の作成する公正証書によって結ぶものとされています[6]。効力が生じるのは契約時点ではなく、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時です[6]。つまり、契約しておけば、判断能力が落ちたときに監督人選任の手続だけで動き出せます。

信託については、法務省が国民向けパンフレット『知って活用 信託制度』を公表しており、高齢の親が将来の判断能力の低下に備える活用例として、長期にわたり生活費を定期的に受領できるようにしておきたい、入居する老人ホームの月々の利用料の支払いが滞らないようにしておきたい、といったニーズを挙げています[7]。なお「家族信託」「民事信託」は民間で広く使われている呼称で、公的機関の解説は信託法・信託制度一般として行われています。呼び名の違いで別の制度があるわけではありません。

よくある質問

Q. 家族が代わりに暗証番号でATMから引き出すのは問題ありませんか? A. 本人の同意なく引き出せば親族間でも争いの原因になりますし、後日、後見人や他の相続人から使途の説明を求められることがあります。金額が大きい場合ほど、記録を残して銀行に相談する形をとるほうが安全です。

Q. 定期預金の解約や不動産の売却もできなくなりますか? A. 判断能力が低下すると、本人名義の財産の処分は原則として後見人でなければ行えません。実際、申立ての動機として不動産の処分は36.3%を占めています[4]。

Q. 後見はいつまで続きますか。用が済んだらやめられますか? A. 法定後見は本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り継続します。「一度だけ預金を下ろすために使う」という設計にはなっていません。開始前に、報酬が続くことを含めて検討してください。

Q. 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業は使えますか? A. 対象は判断能力が不十分な方ですが、同時に「本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる方」であることが要件です[8]。援助は福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理等に限られ、後見人のような包括的な代理権はありません[8]。判断能力を欠く状態になってからでは利用できません。

Q. まだ先の話だと思うのですが。 A. 厚生労働省の資料では、65歳以上の認知症の人は2022年で443.2万人、2030年に523.1万人、2040年に584.2万人と推計されています[9]。軽度認知障害(MCI)を含めると規模はさらに大きくなります。備えは判断能力があるうちにしか作れないため、「まだ大丈夫」と思える時期が唯一の準備期間です。

Q. 保険で備えることはできますか? A. 認知症に備える保険商品や、保険を使った資産の遺し方は存在しますが、有効かどうかはご家族の資産の内訳と目的によります。当サイトでは商品の勧誘は行っていません。整理からご希望の方は、相談のページをご覧ください。

出典

  1. 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(2021年2月18日、https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/、2026-09-08参照)
  2. 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」(https://www.moj.go.jp/MINJI/a01.html、2026-09-08参照)
  3. 裁判所「後見開始の申立て」(https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp1/index.html、2026-09-08参照)
  4. 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月〜12月―」(https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf、2026-09-08参照)
  5. 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和4年2月、https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2021nendo/kasai_koken/4_R40201_housyunomeyasu.pdf、2026-09-08参照)
  6. 厚生労働省「成年後見はやわかり」任意後見制度(https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/、2026-09-08参照)
  7. 法務省「知って活用 信託制度」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00386.html、2026-09-08参照)
  8. 厚生労働省「日常生活自立支援事業」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html、2026-09-08参照)
  9. 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf、2026-09-08参照)

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