役員は傷病手当金を受けられるか。労務不能と報酬という二つの関門
基準日 2026年9月23日 ・ 確認 安井義幸
結論(要約回答)
傷病手当金は、業務外の事由による療養のため労務に服することができないときに、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、労務に服することができない期間について支給されます[1]。金額は1日につき、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額です[1]。期間は、同一の疾病・負傷に関して支給を始めた日から起算して1年6月を超えない期間とされ[1]、令和4年1月1日からは支給開始日から通算して1年6か月に達する日までが対象となり、就労などで支給されない期間がある場合は繰り越して支給できるようになりました[2]。役員についてですが、法人の事業所は事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所であり、適用事業所に常用的に使用される方が被保険者になります[4]。つまり被保険者であること自体は満たします。関門になるのは「労務に服することができない」状態かどうかと、報酬の扱いです。この二点について、当サイトは判断の基準を示した公式の記載を確認できていないため、加入する保険者にご確認ください。
結論の一覧表
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 支給される場合 | 業務外の事由による療養のため労務に服することができないとき | [1] |
| 待期 | 労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から | [1] |
| 金額 | 1日につき、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2 | [1] |
| 被保険者期間が12か月未満の場合 | その被保険者の被保険者期間における標準報酬月額の平均額と、保険者の全被保険者の標準報酬月額の平均額の、いずれか低い額を基礎とする | [1] |
| 支給期間 | 同一の疾病・負傷に関して、支給を始めた日から起算して1年6月を超えない期間 | [1] |
| 通算化 | 令和4年1月1日から、支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで。就労などで支給されない期間があれば繰り越して支給可能 | [2] |
| 年金との調整 | 同一の疾病または負傷等により障害年金もしくは障害手当金の支給を受けるとき、または老齢年金の支給を受けるときは、年金優先の併給調整が行われる | [3] |
| 役員の被保険者資格 | 法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用。適用事業所に常用的に使用される方が被保険者 | [4] |
まず「業務外」であることが前提
答え: 業務外の事由による療養が対象です。業務中の怪我は労災の領域になります。
根拠:厚生労働省の資料は、傷病手当金について「業務外の事由による療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、支給される」としています[1]。
ここで、社長には空白が生まれます。業務中の怪我は労災の領域ですが、事業主は労災保険の対象外で、特別加入していなければ給付がありません。詳しくは社長は労災の対象外をご覧ください。業務外であれば傷病手当金の対象になり得ますが、次に説明する二つの関門があります。
一つ目の関門は「労務に服することができない」
答え: 支給の要件は、労務に服することができないことです。
根拠:厚生労働省は、支給の要件を「業務外の事由による療養のため労務に服することができないとき」としています[1]。
従業員であれば、就業規則上の労務ができるかどうかで判断しやすい要件です。しかし社長の場合、入院していても決裁はできる、自宅療養でも電話で指示は出せる、という状態があり得ます。この場合に「労務に服することができない」と言えるかどうかは、判断が分かれるところです。
当サイトでは、役員についてこの要件をどう判定するかを示した公式の記載を確認できていません。加入する保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)にご確認ください。
二つ目の関門は報酬
答え: 報酬が支払われている間の扱いが論点になります。
根拠:厚生労働省の資料には、報酬を受けている場合の調整について、当サイトが確認できる範囲では記載がありませんでした。年金との関係については、同一の疾病または負傷等により障害年金もしくは障害手当金の支給を受けるとき、または老齢年金の支給を受けるときは、年金優先の併給調整が行われるとされています[3]。
役員報酬は、定期同額給与の要件があるため、期の途中で自由に減額できません。病気で休んでいる間も報酬が出続けるのが通常です。その状態で傷病手当金がどう扱われるかは、加入する保険者にご確認ください。役員報酬の決め方は役員報酬はいつ決めるかで扱っています。
この二つの関門があるため、「健康保険に入っているから大丈夫」とは言い切れません。社長の就業不能に備えるうえで、ここは事前に確認しておく価値のある論点です。
金額と期間は決まっている
答え: 1日あたり、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の3分の2。期間は通算して1年6か月です。
根拠:厚生労働省は、支給額を「1日につき、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額(休業した日単位で支給)」としています[1]。被保険者期間が12か月に満たない場合は、その被保険者の被保険者期間における標準報酬月額の平均額と、その被保険者の属する保険者の全被保険者の標準報酬月額の平均額の、いずれか低い額を基礎とします[1]。
支給期間は、同一の疾病・負傷に関して支給を始めた日から起算して1年6月を超えない期間です[1]。令和4年1月1日からは通算化され、支給開始日から通算して1年6か月に達する日までが対象になり、就労などで支給されない期間がある場合は、支給開始日から起算して1年6か月を超えても繰り越して支給できます[2]。
3分の2という水準は、裏を返せば3分の1は埋まらないということです。そして1年6か月で終わります。そこから先は障害年金の領域になります。障害年金については働けなくなったときの公的な支えで扱っています。
よくある質問
Q. 待期の3日間は有給でもよいですか? A. 待期の日数の数え方については、本記事で参照した資料の範囲を超えるため扱いません。加入する保険者にご確認ください。
Q. 同じ病気で再発した場合はどうなりますか? A. 支給期間は同一の疾病・負傷について通算して1年6か月です[1][2]。同一かどうかの判断は保険者が行います。
Q. 障害年金と両方受けられますか? A. 同一の疾病または負傷等により障害年金もしくは障害手当金の支給を受けるとき、または老齢年金の支給を受けるときは、年金優先の併給調整が行われます[3]。
Q. 国民健康保険にも傷病手当金はありますか? A. 本記事は健康保険の傷病手当金について扱っています。国民健康保険の取扱いは市区町村にご確認ください。
Q. 足りない分はどう備えますか? A. 傷病手当金は3分の2の水準で、期間も通算1年6か月です[1][2]。役員の場合はさらに要件の確認が要ります。会社の固定費と個人の生活費の両方を見て、どこまで自己資金で持つかを決めることになります。整理は保険の相談についてからご相談ください。
出典
- 厚生労働省保険局「傷病手当金について」(第127回社会保障審議会医療保険部会 資料1、令和2年3月26日。https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf、2026-09-23参照)
- 厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22308.html、2026-09-23参照)
- 厚生労働省「傷病手当金について」(第132回社会保障審議会医療保険部会 資料1-3、令和2年10月28日。https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000688661.pdf、2026-09-23参照)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html、2026-09-23参照)