社長は労災の対象外。中小事業主等の特別加入という制度がある
基準日 2026年9月23日 ・ 確認 安井義幸
結論(要約回答)
労災保険は労働者を保護するための制度で、特別加入の対象は「労働者以外の人」です[1]。つまり事業主である社長は、そのままでは労災保険の給付を受けられません。この穴を埋めるのが特別加入制度で、区分は中小事業主等、一人親方その他の自営業者、特定作業従事者、海外派遣者の四つに分かれます[2]。中小事業主等として特別加入できるのは、常時使用する労働者数が、金融業・保険業・不動産業・小売業で50人以下、卸売業・サービス業で100人以下、その他の事業で300人以下の事業主です[1]。そして手続きは事業主が直接行うのではなく、労働保険事務組合を通じて提出することが前提になります[1]。事業主の家族従事者など、労働者以外でその事業に従事する人も、事業主とあわせて包括して特別加入の対象になります[1]。任意加入の制度なので、入っていなければ、現場で社長が怪我をしても労災の給付はありません。
結論の一覧表
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 制度の位置づけ | 労働者は労災保険で保護される。特別加入の対象は「労働者以外の人」(任意加入) | [1] |
| 特別加入の区分 | 中小事業主等/一人親方その他の自営業者/特定作業従事者/海外派遣者 | [2] |
| 中小事業主等の範囲(金融業・保険業・不動産業・小売業) | 常時使用する労働者数50人以下 | [1] |
| 中小事業主等の範囲(卸売業・サービス業) | 常時使用する労働者数100人以下 | [1] |
| 中小事業主等の範囲(その他の事業) | 常時使用する労働者数300人以下 | [1] |
| 手続き | 労働保険事務組合を通じて提出する | [1] |
| 家族従事者 | 労働者以外で事業主の事業に従事する人も、事業主とあわせて包括して対象 | [1] |
労災は「労働者のための制度」
答え: 労働者は労災保険で保護されますが、事業主は労働者ではないため対象外です。
根拠:厚生労働省の特別加入制度のしおりは、「労働者は、労災保険で保護されます」としたうえで、「特別加入の対象は『労働者以外の人』です。(任意加入)」と記載しています[1]。
ここが実務で抜けやすいところです。従業員の労災保険料は毎年納めているので加入している感覚になりますが、社長自身は守られていません。現場に出る業種、車で外回りをする業種ほど、この差が効いてきます。
なお、業務外の病気やけがについては健康保険の傷病手当金という別の制度があります。ただし役員の場合には論点があるため、役員は傷病手当金を受けられるかで扱っています。
入れるのは「中小」の範囲まで
答え: 業種ごとに、常時使用する労働者数の上限が決まっています。
根拠:厚生労働省は、中小事業主等の範囲を、金融業・保険業・不動産業・小売業は50人以下、卸売業・サービス業は100人以下、その他の事業は300人以下としています[1]。
業種によって3倍から6倍の開きがあります。自社がどの業種に当たるかで判定が変わるため、労働保険の適用上の業種区分を確認しておく必要があります。
事務組合への委託が前提になっている
答え: 特別加入の手続きは、労働保険事務組合を通じて行います。
根拠:厚生労働省の特別加入制度のしおりは、申請を「労働保険事務組合を通じて提出してください」としています[1]。
つまり、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託することが実質的な前提です。商工会議所や事業協同組合などが事務組合になっている場合があります。加入を検討する場合、まず委託先を探すところから始まります。
給付基礎日額をいくらに設定するかで、保険料と給付の水準が決まります。具体的な金額の設定については、厚生労働省のしおりおよび委託先の事務組合にご確認ください[1]。
家族従事者も一緒に入れる
答え: 労働者以外で事業主の事業に従事する人も、事業主とあわせて包括して対象になります。
根拠:厚生労働省は、特別加入の対象について、事業主とともに「労働者以外で①の事業主の事業に従事する人(事業主の家族従事者など)」を挙げ、包括して特別加入の対象になるとしています[1]。
配偶者が経理や現場を手伝っている会社は少なくありません。従業員として雇用していない家族も、この制度では一緒に守れます。
入っていない場合、どこが空くのか
答え: 業務中の怪我について、治療費も休業中の収入も公的な給付がありません。
根拠:労災保険で保護されるのは労働者で、事業主は特別加入しない限り対象外です[1]。
業務中の怪我であれば、健康保険の給付も原則として受けられません。つまり、特別加入しておらず、民間の保険にも入っていなければ、治療費は全額自己負担になり、働けない間の収入も止まります。会社の借入金の返済や従業員の給与は、その間も続きます。
特別加入は保険料が比較的低く、加入の手間も事務組合に委託すれば大きくありません。まずここを埋めたうえで、足りない部分を民間の保険で補うのが順番として自然です。どこまで備えるかの整理は保険の相談についてからご相談ください。
よくある質問
Q. 役員全員が入れますか? A. 対象は中小事業主等およびその事業に従事する人とされています[1]。具体的にどの範囲の役員が対象になるかは、労働保険事務組合または労働局にご確認ください。
Q. 従業員が上限を超えたら、脱退になりますか? A. 労働者数の変動に伴う取扱いについては、本記事で参照した資料の範囲を超えるため扱いません。委託先の事務組合にご確認ください。
Q. 一人親方とは何が違いますか? A. 特別加入の区分が異なります[2]。中小事業主等は労働者を使用する事業主、一人親方その他の自営業者は別の区分です[2]。どちらに当たるかは労働局にご確認ください。
Q. 保険料はいくらですか? A. 給付基礎日額の設定によって変わります[1]。具体的な金額は厚生労働省のしおりおよび委託先の事務組合にご確認ください。
Q. 社会保険の加入義務とは別ですか? A. 別の制度です。健康保険・厚生年金保険の適用については法人をつくった時点で社会保険の加入義務が生じるをご覧ください。
出典
- 厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-5.pdf、2026-09-23参照)
- 厚生労働省「労災保険への特別加入」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html、2026-09-23参照)