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年金は繰下げたほうが得か。増額率・在職老齢年金・待機中の死亡まで、判断材料を並べる

基準日 2026年9月8日 ・ 確認 安井義幸

結論(要約回答)

繰下げは1か月あたり0.7%の増額で、75歳まで待つと最大84.0%増えます[1]。繰上げは1か月あたり0.4%の減額(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%)で、60歳まで早めると最大24%減(同30%減)です[2]。数字だけを見れば繰下げが有利に見えますが、判断を左右するのは増額率ではなく、次の3点です。

第一に、加給年金額と振替加算は繰下げても増えません[1]。配偶者が年下で加給年金を受け取れる立場なら、老齢厚生年金を繰下げている間はこれが支給されないため、実質的な機会損失が生じます。第二に、繰下げ待機中に亡くなった場合、遺族が受け取る未支給年金は65歳時点の額で計算され、増額は反映されません[8]。第三に、働きながら受け取る場合は在職老齢年金による支給停止があり、令和8年度の支給停止調整額は65万円です[4]。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げられます[1]。「全部か無しか」ではなく、基礎年金だけ繰下げる、といった組み方ができる点は押さえておきたいところです。

結論の一覧表

論点 内容 出典
繰下げできる年齢 66歳〜75歳(昭和27年4月1日以前生まれは70歳まで) [1]
増額率 1か月0.7%/最大84.0%(同上の生まれは最大42.0%) [1]
繰上げできる年齢 60歳〜65歳未満 [2]
減額率 1か月0.4%・最大24%(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%・最大30%) [2]
基礎と厚生 別々に繰下げ可能 [1]
増額されないもの 加給年金額・振替加算 [1]
在職老齢年金 令和8年度の支給停止調整額は65万円 [4]
令和8年度の満額 老齢基礎年金 月70,608円(新規裁定、前年度比+1,300円) [5][6]
課税 公的年金等は雑所得。公的年金等控除がある [9]

繰下げの「損益分岐」だけで決めないほうがよい理由

答え: 増額率の計算は単純ですが、加給年金と税・社会保険料が抜けているからです。

根拠:繰下げの増額率は1か月あたり0.7%で、65歳から70歳まで5年待てば42.0%、75歳まで10年待てば84.0%になります[1]。この増額率で単純計算すると、70歳から受け取った場合の累計額が65歳から受け取った場合に追いつくのは、受給開始からおよそ11年半後です(当サイトが[1]の増額率から計算)。しかし日本年金機構は、繰下げによって増額の対象とならないものとして加給年金額と振替加算を挙げています[1]。令和8年度の加給年金額は配偶者について243,800円で、受給権者の生年月日に応じた特別加算を含めると最大423,700円です[7]。年下の配偶者がいる方が老齢厚生年金を繰下げると、待機中はこの分が受け取れません。

さらに、受け取る年金は雑所得として課税対象です[9]。増額した年金は、その分だけ課税所得と、所得に連動する社会保険料の算定基礎も増えます。増額率がそのまま手取りの増加率になるわけではありません。

繰上げは「取り消せない」ことが最大の論点

答え: 減額率よりも、一度請求すると取り消せず、他の年金の請求に制約が出る点が重い制約です。

根拠:日本年金機構は繰上げ請求の注意点として、請求後に取り消すことができないこと、事後重症等による障害基礎年金・障害厚生年金の請求ができなくなること、国民年金の寡婦年金が支給されない(受給中の場合は権利がなくなる)こと、65歳に達するまでは遺族厚生年金等と併給できず選択となることを挙げています[2]。減額率は昭和37年4月2日以降生まれで1か月0.4%、最大24%です[2]。

金額の損得より、「将来の選択肢を1つ閉じる手続である」という理解のほうが実務では大切です。

70歳を過ぎて「やっぱり繰下げをやめる」場合

答え: 5年前に繰下げ申出をしたものとみなす特例があり、増額分5年分がまとめて支払われます。

根拠:令和5年4月に施行された特例的な繰下げみなし増額制度は、70歳到達後に繰下げの申出をせずさかのぼって受給することを選んだ場合でも、請求の5年前の日に繰下げの申出があったものとみなして、増額された年金5年分が一括で支払われる仕組みです[3]。対象は昭和27年4月2日以後生まれの方等で、80歳到達日以後に請求する場合や、請求の5年前の時点で障害年金・遺族年金の受給権がある場合は対象外とされています[3]。

つまり、70歳前後で判断を保留しても、5年分は取り戻せる設計になっています。「決め切れないから繰上げる」という選択より、待ちながら考えるほうが選択肢は広く残ります。

働き続ける場合の在職老齢年金

答え: 令和8年度は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えた分の半額が止まります[4]。

根拠:日本年金機構によれば、支給停止額は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2」で計算され、令和8年4月からの支給停止調整額は65万円です[4]。ここでいう基本月額は老齢厚生年金(加給年金額を除く)の月額、総報酬月額相当額はその月の標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額の12分の1の合計です[4]。

老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外です[4]。役員報酬を取り続ける経営者の場合、報酬の設定そのものが年金額に直結するため、報酬・年金・社会保険料をセットで見る必要があります。

よくある質問

Q. 繰下げ待機中に亡くなったらどうなりますか? A. 日本年金機構の説明では、遺族が請求する場合は65歳時点の年金額で決定され、それまでの分が未支給年金として支払われます。繰下げによる増額は反映されません[8]。また、5年より前の分は時効により受け取れません[8]。単身で医療上の不安がある方ほど、繰下げの期待値は下がります。

Q. 令和8年度の年金額はいくらですか? A. 厚生労働省の公表によれば、老齢基礎年金の満額(新規裁定)は月額70,608円で、前年度から1,300円の増額です[5][6]。改定にはマクロ経済スライドが適用されています[6]。

Q. 夫婦で片方だけ繰下げることはできますか? A. 繰下げは一人ひとりの年金についての選択なので、夫婦で別々の判断ができます。老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰下げることもできます[1]。年下の配偶者がいる場合は、加給年金が付く老齢厚生年金は65歳から受け取り、老齢基礎年金だけ繰下げる、という組み方が検討対象になります。

Q. 何歳まで生きるかを前提にした計算をしてもらえますか? A. 損益分岐年齢の計算はできますが、それだけで決めると加給年金・課税・社会保険料・遺族の受け取り方が抜け落ちます。当社の相談では、ねんきん定期便の数字をもとに、繰下げた場合と繰下げない場合の手取りの流れを並べてお見せしています。

Q. 足りない分を保険や投資で埋めるべきですか? A. まず、いつからいくら入るのかを確定させることが先です。不足額が分からないうちに商品を決めると、必要のない保障や過大な積立になりがちです。当サイトでは商品の勧誘は行っていません。

出典

  1. 日本年金機構「年金の繰下げ受給」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html、2026-09-08参照)
  2. 日本年金機構「年金の繰上げ受給」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-01.html、2026-09-08参照)
  3. 日本年金機構「特例的な繰下げみなし増額制度」(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2023/r5_kurisage_kaisei.html、2026-09-08参照)
  4. 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html、2026-09-08参照)
  5. 厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000191631_00020.html、2026-09-08参照)
  6. 厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」別添(https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001639615.pdf、2026-09-08参照)
  7. 日本年金機構「加給年金額と振替加算」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html、2026-09-08参照)
  8. 日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20140731-01.html、2026-09-08参照)
  9. 国税庁「タックスアンサーNo.1600 公的年金等の課税関係」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm、2026-09-08参照)

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